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帰宅の通勤電車に揺られていると、女子高生たちのたわいもない会話が耳にはいった。
「ねえ、バスルームのおかよさんって知ってる?」
黒いスクールリュックを背負った女の子が連れに話かけている。
「はあ?それって、トイレの花子さんのパクリ?」
スマホを操作していた少女が顔を上げた。
「違うよ。髪の毛ないおっさんが、鏡見ながら毛が欲しいって、お願いすると、長い髪の女の人が鏡から現れて、願いを叶えてくれるんだってさ」
リュックの女子高生が真面目くさった顔で話しはじめた。
「きゃはは。キモいよ、それ!で、そのあとどうなるの?」
スマホの少女は笑いながら、興味をそそられたのか、スマホの手を休めた。
私も好奇心が湧いて、なんとなく聞き耳を立てた。
「髪が欲しいですか、って尋ねるそうよ。欲しいと答えると望みを叶えましょうと言うんだけど、その代わりに人柱にされちゃうんだって」
「ふーん。断ったら?」
「呪ってやるう!て、怒鳴って消えるそうよ。でもね、そのとき風呂場の壁に、三本指の跡を残していくんだって。掃除しても消えないそうよ」
「でもあたしたちには関係ないじゃん。髪の毛いっぱいあるしい・・・」
高校生たちは、自分たちの光沢のある健康的な頭髪を撫ぜながら、けらけらと笑いあった。
しかし、すぐに笑い声は止んだ。
彼女たちと私の視線が偶然にも合ってしまったからだ。
私の頭髪は薄い・・・
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