八柱の家

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 シャンプーを手に取り、頭皮をマッサージしながら洗髪した。  シャワーを流し、じゃぶじゃぶ、ごしごし洗う。  また、ごそごそかりかり音がしたが、湯の流れる音でよく聞きとれなかった。  嫌な予感がした。  鏡に知らない人の顔でも映っていたら・・・・  しばらく洗髪に集中した。  洗い終わって鏡を見たが、背後には何も映っていなかった。  やっぱり風のせいだったんだ。  ほっとして、もう一度今度は自分の頭を見た。 「・・・・・!?」  長い髪が私の肩まで伸びていたのだ。  伸びていたのではなく、黒く長い髪がふわりと、私の肩にのっていたのだ。明らかに自分の頭髪ではない。  そっと黒髪に触ってみた。  しっとりと濡れた、女性の髪の毛のようでもあった。 「うわあああ」  私は叫び、肩の髪を慌ててふりはらった。  髪の毛ははらはらと床に落下した。  全裸だったが、かまわずに浴室を飛び出した。 「どうしたの!」  女房がやってきた。 「ちょっとお、パンツくらい穿きなさいよお」 「それどこじゃない!女の髪だ、ありゃいったい、なんだ?」  私は下着に足を通しながら状況を説明した。  女房は黙って話を聞いていたが、やがて言った。 「あの話は本当だったのね。実はご近所さんからこんなうわさを聞いたことがあるのよ」  女房は神妙な顔つきになって話はじめた。 「このあたりは、今でこそ賑やかな住宅街になっているけれど、昭和13年までは墓地だったそうよ」 「墓地?」 「昔、ここは八柱村と呼ばれていた。昭和13年に隣町のM市と合併して今の八柱市になったのだけれど、大きな町を建設するときに沢山の犠牲者が出たらしいの。建物を建てるたびに火災が起きたり、水害があったりして。それで人柱を立てたといううわさよ。八柱というのは人柱。人という文字を崩すと八になるでしょ」 「うええ。ホントかよ」 「市役所の裏に古井戸があるの知ってる?」 「いや」 「当時のまま残存してるそうよ。心霊スポットにもなってるらしいけど」 「じゃあ、風呂場の髪の毛は」  私はすっかり怖くなってしまった。 「そうだ、思い出した。『バスルームのおかよさん』の話を聞いたことあるか」  私は、先日の女子高生たちの怪談の内容を話した。 「昔の霊が蘇ったのかも・・・。あなた、それより服着たら。風邪ひくよ」  女房は表情を曇らせた。
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