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平三郎の家も燃えて、残ったのは黒く煤けた太い柱と梁だけだった。平三郎も頭に大やけどを負い、頭髪は焼け焦げて、人面とは思えぬほどまでに皮膚が醜く焼けただれてしまった。
しばらくして、村の再興が始まった。
しかし、これが思うようにはかどらない。度々かさなる雨風、洪水、さらに流行り病による死者。
村人たちは、古寺の住職に相談を試みたところ、なんと古文書の記録によれば、かつてその一帯には罪人たちの処刑場があったそうな。
彼らの怨念が憑依して、物事は進まぬのではないかと。
では、どうすればよいのか。
かねてより、その地には人柱なる風習があり、人身御供云々の言い伝えがあるという。
当時は現代と違い、迷信がまかり通る時代である。
そこで、白羽の矢が立ったのが、おかよであった。当然ながら、話はおかよには内緒ですすめられた。夫の平三郎も説得しなければならぬ。だが、平三郎は金子(きんす)に目がくらみ、謀に加担することとなった。
村のための集まりがある、良い知恵をだしてもらいたいたいと、酒席に誘いだし、こっそりと眠り薬を酒に混ぜた。やがて、酔いと薬のせいで、おかよが眠りこむと、外へ運び出し、丸太をくりぬいた棺に入れ、蓋をした。あとはそれを柱にして分厚い土壁に塗り込んでしまえばよい。
骨組みだけになってしまった平三郎の敷地に、棺が運ばれると、その場所で人柱が組まれた。
ところがここで、予想外のことが起きた。
おかよの意識が棺の中で戻ったのである。がりがり、どんどんと蓋を開けようとしている。
さすがに、同席していた村人たちも顔を見合わせた。
だが、平三郎は鬼よりも恐ろしいことを考えついた。
金づちと鑿を用意すると、棺の蓋をこじ開けはじめた。おかよの顔のあたりだけに、鑿を叩いて、穴をあけた。
おかよの真っ青になった顔がでてきた。
「ああ、お前さま。はやく、ここから出してくださいまし!」
平三郎は首を横に振った。
「ならねえ。わしが穴を空けたのは助けるためではない。お前の美しい髪が欲しいからだ。見よ、わしの醜い頭を。おまえのみどりの髪でわしの髷をつくる」
平三郎はおかよの長い髪をむんずと鷲づかみにすると、こんどは大きなはさみで、無造作に切り落としたのだ。
「どうだ、似合うであろう」
かつての夫は、切り取った髪を己の頭部にのせて、からからと笑った。
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