乙女の祈り

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 今日は、月は出ているか。   晴海は仕事の帰り道ほぼ毎日夜空を見ているが、月がでているかたしかめるのが日課になっている。仕事の帰り道、電車から降り団地へ向かう道を歩くと、横には大きな公園が広がっていて同時に広い空が見えるのだ。特に冬は夜が更けるのが早く、仕事が終わると大抵晴れの夜では、月が見える。  春のある日、会社の後輩の美智子が、熱を出し仕事を三日休んだ。  いつも来ていない人がたまたま来ていたので「土曜のように分担してやりましょう。」ということになり、美智子がいない分の多くの仕事をすることは回避された。  とはいえ、晴海は元々の仕事の量が少なくて、暇な職場だったのでトータルで人一倍分の仕事をした。適度に仕事をしたのでストレスは溜まらなかった。  いつもの労働力は人の0.七倍分位だったが誰も文句は言わなかった。バイトだからだろう。  そんな晴海の仕事の中でも特に好きな仕事がある。  晴海の職場の屋上にはお客様を迎える庭園があって、そこには草が生えているのだが、その草の中でも背の高い雑草を抜くのが時々の夏の仕事になっていた。  大抵は、初夏だった。 初夏に、二人は草刈りを一年ぶりにした。  晴海達の毎年恒例の特別な夏のイベントのような仕事が、この庭園の草刈りである。二人はこの仕事が大好きだった。  庭園の雑草抜きを同僚と話しながら青空の下でするのが、天空の雲の上に庭が広がり、その中で草を整えてるように思えるのだった。  庭園は、まるで天国の庭師になったかのような気分にさせられるのだ。  内容自体も仕事を強いられてる感もなく、かといってさぼってる感もない。いつも二人は適度に手を動かした。  周りに高いビルもなく、周りを見渡すと、木が生えた丘と二階立ての家々が沢山並んでいる。私達は三階にいるので周りを広々とを見渡すことが出来た。心地よい風が時々流れる中、二人は草刈りをしながら話した。 「天国がこう言うところだったらいいのにね」  と美智子が言った。 「でも、天国でも働くのかな。遊んでいられたらいいのにね」  と、晴海は答えた。  この働きながらの天国観が正しいのかは、天のお迎えが来なくてはわからないのだが、それを考えるにはまだ早い、と二人は考えている。
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