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体から羽根が生えてくる。
この病に名前はない。病院に駆け込んでも医者は首を傾げるばかり。何軒通ったところで、羽根が生える理由はわからない。
医者の知らない病。でもわたしは一つだけ知っていた。
この羽根は、先輩と共にいるたびに増えていく。
先輩は完璧な存在だった。近づけば嫉妬してみじめな気持ちになるだけとわかっているのに、惹きつけられてしまって離れることができない。そして今日も先輩のところへ行くのだ。
放課後の美術室。小さな丸椅子に腰かけて、先輩は本を読んでいた。
「あら。きたの?」
蠱惑的な笑みを浮かべながら先輩が歩み寄ってくる。
スカートを揺らす白い脚が目に入った。すらりと長いそれは理想的で、わたしの思考を蝕んだ。
「……あら。あなたも変えたのね」
先輩は身を丸めて、わたしのスカートを見る。それから手を伸ばし、スカートと太腿の境目を細い指先でなぞった。
わたしは何も答えることができなかった。先輩の髪から漂うみずみずしい果物の香りに酔いしれて、言葉を紡ぐ余裕もない。先輩が纏う香りはわたしの鼻腔に焼き付き、夕暮れの美術室を花畑に変えるようだった。
禍々しい感情が湧き上がってくる。
先輩はいつだって美しい。うなじが熱を持って、痛む。
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