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めき、と音が聞こえた。場所がうなじで耳に近かったこともあり、骨の軋むのをはっきりと感じる。
また、羽根が生えてしまった。
痛みに顔を歪める私に、先輩がいたずらっぽく笑った。
「ふふ、嫉妬したのね」
見抜かれてしまった悔しさに、わたしは俯く。
「先輩が綺麗で……いい香りがして……」
「ありがとう。とてもうれしいわ」
先輩はわたしの頭を優しく撫でた。泣いている子供をあやすように温かい手のひらだった。
「でも。あなただって綺麗なのよ。気づいていないだけ」
こんな風に慰められたって嬉しくない。みじめな気持ちになるだけ。
わたしは先輩から一歩離れ、顔をそむけた。その仕草に、すかさず問いかけが飛んでくる。
「どうして私を見てくれないの?」
「先輩を見ていると妬んでしまって、羽根が生えてしまうんです。これ以上羽根が生えてしまったら、わたしは……」
床と上履きの擦れる音が聞こえて、それ以上の言葉を紡げなかった。
美術室の空気がわたしに向けて流れていく。その中に先輩もいて、喉奥に潜めていた艶色を吐き出した。
「もっと、私に嫉妬して」
先輩は、わたしの両頬に手を添えて、ぐいと持ち上げる。
視線が交差する。
わたしに向けられるのは澄んでいて、美しい瞳。
「私への嫉妬で、羽根を生やして。あなたが白鳥になるところを見せて」
背が熱く痛んで、骨が軋む。
先輩に望まれてもわたしは白鳥になりたくない。この羽根が疎ましくてたまらないのだ。
だってその瞳に映りこんでいるわたしは、みにくい。白鳥になんかなれない。
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