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ジェラシースワン
嫉妬が、わたしの手首に羽根を生んだ。
夕日が支配する埃臭い美術室に、この羽根は異質の存在だった。
最初はわたしの手首に針金が刺さったのかと思ったけれど、よく見れば違う。しなやかな白線の先で、ふわふわとした羽弁が揺れていた。
わたしが鳥ならば驚くことはないのだけれど。残念ながら人間なのだ、羽根なんて生えるわけない。
「ひっ……な、なにこれ……」
静かな美術室にわたしの悲鳴が響く。
じんじんと疼く手首を押さえていると、わたしの異変に気付いたらしい先輩が立ち上がった。
「どうしたの?」
「は、羽根が生えてきて……!」
人の体から羽根が生えてくるなんて初めてのことだし、聞いたこともない。
この異常事態に慌てふためくわたしと逆に、先輩は落ち着いていた。わたしの手首を眺めながら、ゆっくりと歩み寄る。
「それは大変ね。羽根が生えた心当たりはある?」
まるで羽根が当たり前のことのように先輩が聞くものだから、わたしの頭もしんと冷えていく。
「……先輩の横顔を、見ていました」
読書に夢中な先輩の隣に座って、気づかれぬようにその横顔を覗いていたのだ。
カーディガンの袖から伸びた細い指。さらりと落ちる長い髪の毛。文字を追いかけるのに夢中な憂いを帯びた瞳。
かすかな動作も記憶に焼き付け――
「美しすぎて、嫉妬してしまったんです」
妬ましいと思ってしまった時、手首が熱くなったのだ。そして、気づいた時には羽根が生えていた。
「あら、私が原因なのね。ねえ、もっとよく見せて」
「触ったらだめです! わたしから生えてきた、汚い羽根ですよ。もしこの病気が先輩にうつってしまったら大変です」
「汚いものじゃないわ」
そう言って、優しい指先が羽弁を慈しむように撫でた。
「私は好きよ。だって白鳥の羽根ですもの」
「え……白鳥?」
わたしはそこまで鳥に詳しくない。姿は思い出せても羽根の細やかな形まではわからないので、わたしの手首から生えたものが白鳥のものだと信じられなかった。
「綺麗な白色だから、白鳥だと思っただけよ」
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