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「だって、俺は、お前のその『弱さ』を愛してるんだから。」
薄く開いた歯の隙間に、指先が捻じ込まれる。熱い口腔に、熱の違う異物が。その内、同じ熱さになるだろう。
「俺はずっと、『弱さ』に『愛してる』って伝えてきたんだ。だから、憎いはずがないだろ。お前が、俺から逃げるその弱さも、愛おしくてたまらないんだ。」
愛情は募っていくばかりだと、愛しい人は言う。指先が、ざらついた舌の上を撫でる。まるで呼吸を促すように、指は気道を開く。自分の唾液が流れ込む。こくりと喉が鳴った。
「お前は、弱いよ。お前は、弱さそのものだ。」
ぎゅっと抱きしめられる。温かな別の熱が、俺を抱擁する。
「愛してる。」
心地よかった。心地よくて、よくて―――怖い。どうして、愛されてしまったのだろう、本当の自分を。抉じ開けられる。愛情が、俺を剥き出しにする。皮膚も、肉もなく、何にも守られない俺が暴かれる。
そして、俺はきっとこのまま溺れる。
そこには、憎しみという浮輪がないから。悲しみも、寂しさも。愛情しかない。そして、愛情は、何よりも重かった。だから、何にも守られない暴かれたままの俺は、底の底まで沈んで行ってしまう。
俺は、きっと死ぬのだ。心地よい愛情という海の底で。
End
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