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「鈴原、放課後ちょっと職員室寄れ」
一向に授業を真面目に聞く様子がないキヨを、担任がとうとう呼び出した。説教をするというより、優等生だったセイがどうして急にこうなってしまったのか心配して、というのが表情から読み取れた。その顔は椎木に似ていた。
放課後、職員室には寄らなかった。家にも帰らず、ふらふらと繁華街を歩いた。
何もやりたいことがない。何も夢がないのに、どうやって生きていけばいいのかわからない。セイを幸せにすることだけが、キヨの夢だったのに。
椎木に会いたかった。セイの存在を知るただ一人の人間。今日、担任の顔が椎木とかぶって見えて、ひどく会いたくなってしまった。
でも、会えない。
自分はセイを消したのだ。椎木はセイを愛した。キヨの思惑通りに。それなのにキヨはセイを消した。椎木にはセイを消す手伝いをさせてしまったようなものだ。
セイが消えて、目覚めた時、泣き叫ぶキヨをずっと抱いていてくれた。宥めることなく、叫ばせてくれた。声が出なくなって嗚咽を漏らすようになっても、涙が枯れて蹲るだけになっても。ただ、抱きしめてくれていた。
椎木は泣けただろうか。あの泣き虫は、一人で泣いたのだろうか。
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