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 タクシーを降りて、椎木は身震いした。  椎木が思っていたよりもひと足早く、季節は過ぎようとしているのかもしれない。  バイトすらせず、前職の退職金と就職してから細々と貯めていた金を切り崩す生活になって早三ヶ月。今季節は秋になっていた。  酒は控えていた。現在仕事をしていなくとも、少し休んだら社会復帰するつもりだったから、飲んだくれる生活に慣れてしまうのは怖かった。  それでも今日は友人としこたま飲んだ。嫌なことを忘れてひどく楽しくなって、気づけば日付が変わっていた。  友人にタクシーに乗せられて、家の少し前で降りた。涼しい夜風にあたりたくなったからだ。  国道を跨ぐ歩道橋を渡れば、すぐに椎木の住むマンションがある。  鼻歌交じりで、ふらつく足を動かして階段を上る。夜中にも関わらずひっきりなしに真下を通り過ぎていく車の音に、歌はかき消された。なんとなく面白くなくて、ついつい声を張り上げてワンフレーズ歌った時、歩道橋の中央に人がいることに気がついた。
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