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 歩道橋の手すりに寄りかかっていたセイは、椎木の姿を見てこちらに歩いてくる。  昨日のことは夢ではなかったのだとわかった。  冷たい風が、セイの髪を揺らす。色素の薄い髪。昨日、色彩豊かに見えた瞳は微かに青みがかっていて、もしかしたらどこか日本人ではない血が混ざっているのかもしれないと思った。  セイは、椎木の目の前で足を止める。笑みを深くした。 「椎木守。三ヶ月前まで男子校の高校教師だったが、一身上の都合で退職。今は無職。恋人にも逃げられて半引きこもり生活。一身上の都合としてるけど、実際のところは同性愛者ということを保護者に問題視されて辞めさせられた」  合ってますよね? と、セイは首を傾げる。  頬を打つ風が痛かった。手が震える。  その椎木の震える手を、セイは両手で握り込む。そうされて初めて、自分がコンビニ袋を落としていたことに気がついた。一瞬落としたものに向かおうとした視線は、セイがぎゅっと手に力を込めたことで戻された。
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