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感極まってるな。気持ちはわからなくもない。
そして、わざとじゃないのもわかる。
でも、鼻水を制服につけないでくれ。たのむ。
「彼氏に振られたの」
「え? 田中くんと?」
涙ぐみながらトモミは何度も頭を縦にふる。
だから、鼻水は制服につけないでくれ。わかったから。
「あいつ浮気してたの……もうあたし悔しくて」
学生鞄からあたしはポケットティッシュをトモミに手渡す。
トモミは鼻をかんだ。あたしの制服のブラウスで。
おまえ……。
「なんであたし……悪いことしてないのに!」
「まぁまぁ落ち着いて。話聞くよ。ファミレスでも行く?」
「落ち着けってどうやって?」
あ、やば。
面倒くさいスイッチ押してしまったか。
「いや、それは」
「ううう……欲しいよぉ《恋人が欲しい》よぉ……」
トモミは独り言をぼやきながら、涙と鼻水でくしゃくしゃになっま顔をあたしのブラウスに埋める。
早く帰って洗濯したい。
そう思った。
すると。
「ん? 臭っ!」
魚の臭い
なに? どうした。
原因がなにかあたりを見渡して探していると、頭の上に影が落ちた。
見上げてあたしは唖然となる。
魚の顔をしたおじさんが立っていた。
「……」
真っ白い鱗に赤色と黒色のまだら模様。あと口の左右には長い一本髭。
このフォルム。
わかった。
鯉だ。
「コイ人……だね」
蛆神様についてわかったことはふたつ。
ひとつは、勝手に人の願望叶える迷惑な神様だということ。
もうひとつ。
結構聞き間違いしやすいことだ。
2話 《恋人》 終
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