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傍らの友達が寝ている相手に問いかける。けれど聞こえたのはそれに対する返事ではなかった。
「せっかく二人で話してるのに、邪魔だなぁ。ねぇ、邪魔されない所に一緒においでよ」
「…うん」
誰かの声にそう寝言が続いた後、眠る友達の口から絶叫が響いた。
突然のことに驚いて布団から飛び起き、俺達はその友達を揺さぶった。けれどそいつは眠ったまま目を覚まさない。
今の叫びを聞きつけたのだろう。すぐに他の部屋からも人が押し寄せ、顧問の先生がそいつの様子を窺った後、深刻な顔で119番に電話をかけ、友達は程なくやってきた救急車で運ばれていった。
それがおよそ半年前のできごとだ。
あれからずっと例の友達は病院にいるが、いまだに意識は戻っていない。
同室だった俺達は事情を聞かれ、起きたことをありのままに喋ったが信じてはもらえず、さすがに俺達が原因でああなったとは誰も考えず、友達は、何らかの理由で意識不明になってしまったのだということになった。
でも、同じ部屋にいた俺達は友達と会話する何ものかの声を聞いたんだ。そして、あの件の後調べて、寝言を口走る人間に話かけてはいけないということを知った。
科学的には、寝言に返事をするのは、眠りの浅いレム睡眠を妨げ、睡眠不足を引き起こすからだと言われているが、昔から、寝言は寝ている人が霊と対話をしているため、話しかけるのはそれを邪魔をすることになる、という迷信があるらしい。
その迷信の中に、寝言に返事をすると、霊が寝ている人の魂を連れ去ってしまうという説があった。
友達は、あの夜話しかけきていた何かに魂だけ連れて行かれたのかもしれない。だからきっと、もう二度とこのまま目を覚ますことはないだろう。
話かけたのは俺ではないけれど、あの場にいて止めなかった以上、総ては同じ部屋にいた俺達の連帯責任だ。
その罪の意識が暗く留まり続ける心に、あの時の友達の絶叫は消えることなく響き続けるだろう。
寝言に返事をしてはいけません…完
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