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「アケミ!何度言ったらわかるの?水回りは一番最初でしょ!」
ナンシーの怒鳴り声が聞こえてきた。トイレからだ。アタシは新宿のおかまバーで働いていた。おかま?アタシはおかまのつもりなんてないわ。ただ、働けるところがここしかなかったの。化粧してもワンピースを着ても何も言われない。せいぜい言われても化粧品変えた?か、スッピン酷いわね?くらい。
「出勤したらまずはトイレ掃除。舐められるくらいきちんと拭くの。便座裏から周りの床まで隅々ね。」
「だめよだめよ。なんでそこを拭いた雑巾で便座を拭くの。拭く時は綺麗な順に、床はトイレ用のモップって言ったでしょう?」
はーい。アタシはこんな仕事辞めてしまいたいっていつも思っていた。ただ自分は女性として働きたいだけなのに、なんでこんな掃除のおばちゃんみたいなことまでしなければいけないのだろうって。フォーマルワンピースを着て、首にココ・シャネルのスカーフを巻いて、単にOLがしたいだけなのに。おまけに薄給。今月も幾度の寝坊で罰金地獄。生活費を払うのにやっと。二日酔いでどうにかこうにか出勤したけれど、化粧もそこそこにピンクのドレスを上から被っただけ。剃っただけの青髭じゃ化粧でカバーしきれないわ。こうしてアタシはどんどん自堕落になっていくの。早く死にたい。生きる希望もなければ、死ぬ勇気もない。こんな絶望を神様にも分けてあげたいわ。
「いらっしゃいませー。」
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