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店での源氏名はアケミ。本名?ああ、戸籍上のね。一回死んでからアタシはずっとアケミよ。両親?知らないわよ。アタシはカサブランカの妖精なのよ。冗談で言っているのか本気で言っているのかわからない狭間の会話にもうろくしながら、ウーロンハイを作る。はい、アルコールは濃い目ですね?あら、アタシの化粧が濃い目ですって?失敬な人ね!知ってますわ、おほほほほ。
「アケミさんは好きな人っているんですか?」
ケンジだけは違った。大学生で就活も終わり、来年からサラリーマン。絵に描いた順風満帆。
「いたら、どうするの?」
「いたら悲しいっす!」
ケンジは酔うのが早い。おまけに甘えん坊で泣き上戸。アタシはついつい気を許してしまう。
「いないわよ。ケンジ君と付き合えたら、そりゃアタシは幸せよ?」
ヴーヴクリコをグラスに注ぐ。ケンジはグラスを見つめながらテーブルの下で手を握る。
「でもね、アタシには高嶺の花なの。」
「アケミさん言ったじゃないですか。カサブランカの妖精だって。」
「まぁ、それはそれよ。」
とんだ接客殺しで困りもの。ここは腐っても現実。確かに多少の演出は否めないわ。だからスナックがあるんだもの。アタシが髭なしでもう少し美人だったら一発で仕留めるのに。アタシには自信がない。
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