カサブランカ

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カサブランカ

 生まれて物心をつき始めた頃から、周りとの違和感に気づいていた。きっと他人より生理じみたものが早くきたのだ、と解釈できるほどアタシはまだ大人じゃなかった。テレビを観るなら戦隊ヒーローよりもセーラームーン。遊ぶなら鬼ごっこよりも化粧にままごと。どことなく確実に乖離は始まっていた。トイレに座って用を足すのは便座を汚さないためだと信じるようにしていた。  そんなアタシのあごに髭が生え始めたのは高校三年生の時だった。今でもはっきりと覚えている。忌々しい十一月十日の水曜日。別に下半身の毛ならどうにでもなった。大人になれば男女問わず陰毛は生えるものだし、パンティを穿いてしまえば気にするほどでもない。ハイレグカットを穿くような時代じゃないから、トランクスのような水着でもいいし。そもそも水泳の授業には一度も出席したことがないのよ。胸を出して泳ぐなんて、とても考えられなかったんだもの。とにかく屈辱的だったわ。アタシは父親の髭剃りでそいつを剃り落としてやったの。一般的に言う反抗期の始まりってやつかしら?遅い?でもね、その頃からアタシはいつでも女性らしく振舞わないと居ても立ってもいられなくなってしまったの!
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