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彼女について
見ていると、彼女はあっという間に顔中に粉を叩きつけ、最後に小さめの唇を強調するかの様にそれを真っ赤に塗った。
何とも言えない匂いを体中に振り撒くと、忙しく彼女は玄関先へと向かう。
僕が送る熱い視線なんて全くスルーだ。
なのに、そこで漸く僕の名前を呼ぶんだ。
とても甘く蕩けるほど愛しい声で。
名前を呼ばれた僕はベッドから急いで飛び降り彼女の元へと急ぐ。
玄関先で彼女は僕を抱き寄せ軽めのキスをして、そして耳元で言うんだ。
「行ってくるね。」
って。
彼女は重そうに玄関のドアを押し開けると僕の方なんて振り返ることもなく外の世界へ行ってしまう。
そんな彼女を僕はせめてと一生懸命見送るんだ。
目一杯、
力を込めて尻尾に、
尻尾を思い切り振って…
そう、僕の尻尾。
僕には尻尾がある。
だって、僕はーーー
犬だから。
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