不安という気持ちについて

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それからの僕は明かりもない部屋で、とてつもなく長い時間を過ごした。 どれくらいかなんて分からない。 ただただこの家で一人で過ごした。 ヤツが多目に置いてったご飯も水も、もうとっくに無かった。 ヤツが来たとき、飯なんていらねぇよとか偉そうにいったけど腹は減るもんなんだな。 いや、腹が減るのはまだマシだ。犬の体はそれなりに耐えれるようになっている。 問題は水だ。 さすがに苦しいな。 ああ、体が重い。 思う様に動けねぇや。 こんなんじゃ彼女が今、帰ってきても可愛く尻尾も振れねぇじゃんかよ。 ああ、喉渇いたなぁ。 部屋の隅に置かれた僕用のベッドに横たわりながら部屋を見渡す。 もちろん、どこにも彼女の姿はない。 ふと窓の方を見ると薄暗い部屋にほんの少しだけ明かりがさし込んでいた。 ヨロヨロと近づいてカーテンの隙間から、その明かりを見るとーーー 丸いものが浮かんでいた。 ああ、あれ知ってるよ。 確か…月だ。 前に彼女が教えてくれた。僕を抱きながら「コタ、あれが月だよ。綺麗だね。まぁるいね。」って。 彼女と見たその時の月は確かに綺麗だった。真っ暗な空にぽっかり浮かんでキラキラしてた。 だけど今見るとーーー 何だ、月ってドーナツみたいだな。 まぁるくて、中に白くて甘いのが入ったアレだ。 ヤツが前に少し分けてくれた彼女が一番好きなドーナツ。 月がドーナツに見えるよ。 前に見たときと違って少し欠けてる。まるで彼女がドーナツをかじったみたいに…… その瞬間、考えない様にしていた彼女の笑顔が浮かんだ。 途端に、体から力が抜けて、段々と視界も暗くなってきた。 限界なのかもしれない。 僕の体の事は僕が一番わかってる。 本当にもう彼女に会えないのかな。 僕は会いたいよ。 彼女に会いたくて会いたくて会いたくて、 会いたくて仕方ないよ… だけど、この部屋に彼女はいない。 どこを探してもいないんだ。 彼女の声もしない。 彼女が僕に触れることもーーー 僕はそのまま、目を閉じた。 僕は今とても不安な気持ちだ。
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