大切な思い出は永遠に

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 振り向くと、一真は洋室の中で佇んでいた。  私は壁のスイッチに触れた。照明が一度点滅して、部屋を明るくした。  テレビや棚など、生活感のあるものはほとんどない。唯一あるのはテーブルだけ。その代わり、透け感のある白いカーテンが四方八方につけられ、一部の壁には白い十字架がかけられている。  他へ移動しやすくするため、通路の出入り口はカーテンがかからないように飾ってある。  地味に見えるけど、白は純真さを際立たせている。私の作った聖域だ。  一真は呆然と内装を見回していた。 「綺麗でしょ」  私は語りかけるように呟いた。 「なんだよ、この部屋」 「ここで式を挙げるの」 「は!?」  一真は動揺と焦燥を感じさせるような表情で、私を大きく見開いた目で捉えた。 「大丈夫、ここで結婚式を挙げるとか言わないから」 「じゃあ式ってなんだよ」  低い声色で聞く一真に、私は微笑みながら優しい口調で答えた。 「ここで別れの式を挙げるの。失恋式」  一真は黙ってしまった。挙動しているのは黒い瞳だけ。 「マジで言ってんのかよ……」  一真は険しい表情で呟く。 「これが終わったら、私は一真と一切連絡を取らない。追いかけもしない。いいでしょ?」  難しい顔をした一真は指先で眉間を掻いて、「で、何をするんだ?」と絞り出したように聞いてきた。 「この十字架の前で、誓いの言葉と餞別(せんべつ)の言葉を述べて最後のキスをする。そして、最後に私が作った料理を一緒に食べるだけ」 「本当にそれだけか?」 「うん」  一真はため息を零し、小さな声で「分かった」と言った。
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