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私は泣きそうになるのをぐっと堪え、口を開いた。
「まずは誓いの言葉。……私は、土田一真さんとの交際を終わりにします。これまでの日々は、とても幸せでした。これを大切な思い出とし、もう二度と、交際することはないと誓います」
一真は困惑した様子で私に視線を送っていた。
「私と同じことを繰り返して」
「分かった」
私は一真を見つめながら、静寂に谺する音色に耳を澄ませて息を零した。
「私は」
「私は」
「野嶋香陽さんとの」
「野嶋香陽さんとの、交際を終わりにします」
私は微笑んで首肯する。
「ここからは、あなたの言葉でいいわ」
一真は透けたカーテン越しの窓から見える景色に、落ち着きない瞳を振った。
宝石のようにキラキラした瞳は、切なげに小春日和の空と太陽を反射する家の屋根を見つめていた。
こんな晴れた空の下で、何度も2人で歩いた。お互いに通じ合っていた。
何も言わなくても、私達は手を繋いで笑い合っていた。
あのゆっくりと流れる雲のように、どこまでも続く空を泳いでいたんだ。
「俺は……」
一真がくぐもった声を吐き出した。一真の顔はまだ窓の外に向いていた。
「君が嫌いだ」
はっきりとした言葉だった。こんなにも明確な答えを前に、私は抗うことなどできなかった。足は震え、立っているのがやっとだった。
「でも……香陽と過ごした日々は、どんな日々よりも、楽しかった」
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