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 谷口さんは、俺をまじまじと見つめて。信じられん……という風に、首を横に振った。北条さんは、落ち着いた様子ではあるものの、それでも俺の方をちらりと伺っている。何か、俺の値踏みでもしているかのような。……ほんとに、そうなの? といったところか。  京子さんは……思いっきり、複雑な表情をしていた。俺がそんな存在であることが、嬉しい気持ちもあり。同時に、なんだかとても信じられないような。自分が種族のことを教え、戦い方を教え、そして……一緒に暮らすようにもなった。その、年下の大学生が。まさか、そんな人物だったなんてそういう思いだろうか。俺の目を何度も見ながら、なんて声をかければいいのかわからないようだった。     そこで俺は、更に確認をした。 「救世主……です、か。それは、この剣が、という事ですか? この剣を持つ物が、救世主であると。それとも、それとは関係なく。俺自身が、という事ですか?」  俺は、光を湛えた剣を老人の前に突き出した。例えこの剣がなくても、俺が「救世主」だっていうのか。……老人は、静かに答えた。 「その通り。お主が救世主だからこそ、その剣は光を帯びているのじゃ。他の誰にも、そうやって剣を輝かせることはできん。それが何より、お主自身が救世主である、という証じゃよ」  老人のその言葉に、皆はあらためて、俺の方を見つめ直していた。信じられない、だけど信じざるを得ない。そういった表情で。ただ一人、勇二さんだけが腕組みをしたまま、何かをじっと考え込んでいたが。  俺は、ふうっ……と息をつき。そして、考えていたことを、口にした。 「あなたがそうおっしゃるんでしたら……そうなのかもしれません。でも。正直言って俺は、どうすればいいかわからないんです。救世主というくらいなら、その使命とかあるはずでしょう? それが、俺にはまったく見えない。この先、どうすればいいのかが……」     老人は、自分をじっと見つめる俺の視線に、やがて「ふっ」と笑みを浮かべ。それから、俺の心を見透かしたように言った。 「ほんとうに、そうなのかね……? わからない、のではなくて。答えは出ているんじゃないのかね? 君の中では。それを、ここに確認しに来たんじゃろう……?」  今度は皆の表情が、えっ……? という、驚きの顔になった。さすが、だな。伊達に、長老などと呼ばれているわけではない。
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