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「ありがとう、誉さん……」
「ありがとうって……お礼を言うのは私の方です」
薬指にはまった指輪を見つめていると、気持ちがどんどん溢れてきた。あぁ、これでいいのだと――。
下らない喧嘩も、嫉妬も、不安も……確かな愛情も。こうやって一つ一つ確かめていけば、何も怖い事は無いのだと――。
どうしてあんなにも気に病んでいたのかとも、可笑しくなった。
(本当に……厄介ですね。でも――……)
これ程までに人を愛おしいと思った事もないと、私は藪中の胸に飛び込んだ。
「――っ、誉さん?」
藪中が迷わず大きな胸と腕で抱きとめてくれる。そんな彼に。私はこれ以上に無い愛を与えたいと心から思った。
「――愛しています。路成さん……こんな私を愛してくれて、本当にありがとうござます」
「……誉さん」
彼の肩口に伏せていた顔を上げると、自然と視線が絡み合った。何も言わずに近付くのは、幾度となく重ねてきた唇だ。朝陽が眩しく降り注ぐ室内で交わす口付けは、今までより柔らかくて、あたたかくて、愛が溢れていた。
これからの人生に気持ちを馳せる――。
何があっても、喜びも悲しみも分かち合い、明日も、来年も、何十年先も、その先もずっと、運命の番である藪中路成と共に過ごしたい……そう願い思い、私達はお互いを強く抱擁しては、溶け合う口付けを交わす。
そして、余談ではあるが、私の体に新たな生命が宿っている事に気付くのは、これから数ヵ月後の話だったりする――。
その種、頂戴します。(番外編)終
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