Marriage Blue(後編)

49/56
前へ
/137ページ
次へ
(あぁ、何て事……)  シーツに包まる中、痴態が駆け巡る。発情してしまったとはいえ、あれは無いだろうと自己嫌悪に陥る中、何故抑制剤を飲んでいたのにも関わらず発情を迎えてしまったのかという疑問が過る。  瑞貴の忠告を受けてから意識的に注意を払っていたのだ。唯一、いつもと違うところと言えば、副作用が少ないからと新たな抑制剤を処方した事だ。  もしかしてそれが駄目だったのかもしれない。効果が弱かったのか、それとも自分の体に適合しなかったのか――……そう解釈をしているところで、扉の開く音が静かに響いた。 「――っ」  誰が来ただなんて確認しなくてもわかり体をピクリと震わせる。 「――誉さん?」 「――――はい……」  シーツに顔を隠したまま返事をすると、藪中の優しく小さく笑う声が聞こえた。 「あ、起きてましたか。体、大丈夫ですか? あの、昨夜無理させちゃったんで……」  語尾を濁らせた藪中が、ベッドに腰掛けた。 「……誉さん。もしかして、気分が悪いですか? 一応抑制剤は眠っている間に飲ませましたけど」  藪中はシーツを退かせようと手をかけたが、私はそれに抵抗し手に力を込めた。あんな、はしたない願いを口にして、あんな淫らな姿を見せて、一体どんな顔をすればいいのかと混乱していたからだ。 「あの、誉さん……このまま、俺の話聞いてもらってもいいですか?」 「…………?」  藪中がシーツを掴む手を離し、徐に語り出す。 「――あの夜は、本当にすみませんでした。子供じみた下らない嫉妬で誉さんを困らせて、怒らせて……」  その口調は、いつもの彼とは随分違い、どこか落ち込んだ風にも聞こえた。私はそのまま黙って話を聞く。
/137ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4910人が本棚に入れています
本棚に追加