4910人が本棚に入れています
本棚に追加
「そんな事って……だって、仕方が無いじゃないですか。貴方自分の立場、わかってます?」
「まぁ確かに、結婚も急ぎ足で決まったし、真面目な誉さんの考えそうな事ですよね。すみません、悩ませて……全部俺の所為ですよね」
「だから、藪中さんの所為じゃなくて! これは私の心の問題なんです、もう、謝らないで下さい……」
私はゆっくりと上体を起こし彼と向き合い述べた。そんな私の手を優しく握るのは、勿論愛おしい彼だ。
「誉さん、さっき釣り合いたいって言いましたけど……それ、俺の台詞ですからね」
「――え?」
瞳を瞬かせてていると、藪中は頬を軽く膨らませていた。
「……だって、誉さんって俺からしたら大人だし、何ていうかその、俺ばかりがいつも必死で……」
「えぇっ?」
「それに、あの久我って男にも子供だって言われたし、あぁ、俺ってやっぱり誉さんからしたら、まだまだガキなんだなぁって、それなのにあんな事言ったし挙句の果てに行為にも及んだし……なんかもう、関西に赴いている最中、自己嫌悪で押し潰されそうでした」
藪中がシュンと項垂れては、最後にすみませんと小さく言った。
「――藪中さん、貴方……ふふっ」
まるで大きな犬が、飼い主に酷く叱られたような姿に、笑いが吹き出てしまった。
「ちょっと、笑わないでくださいよ! 誉さんとの歳の差を恨んでいるんですから! いつまで経っても追い付けやしない」
「歳の差って、だったら私は藪中さんより早くにおじさんになるのが、嫌ですよ」
「誉さんは何歳になっても、絶対綺麗ですから問題無いんです!」
「なんですか、それ……」
どんな理由付けなのだと苦笑していると、藪中が真剣な面持ちを浮かべ、ジッとこちらを見つめた。
最初のコメントを投稿しよう!