Marriage Blue(前編)

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*****  あれから心配していた発情期は結局訪れず、いつもと変わらない日々を送っていた。  どうやら勘違いだったらしいと、胸を撫で下ろしたが、如何せん予想のつかない自身の体だ。警戒心だけは解いてはいけないと自らに言い聞かせていた。  ソファで体を激しく交えた翌日の午後、藪中は予定通りにアメリカに向かった。  たかが一週間、されど一週間だが、藪中不在の広いマンションは妙に静かだった。それが原因なのか、孤独な気分を呼び起こし心を苛んでくる。私は気持ちを紛らわす為に、ひたすら仕事に打ち込んだ。  今まで一人で生きてきたくせに、誰かを愛する事で、初めて気付いた感情に戸惑いながら――。  藪中の付き人兼世話役である西野は今回は渡米せず、どうやら彼から私の身の周りの世話と、通勤時の送り迎えを言付けられたらしい。  あまり嬉しくない提案だが、藪中曰く、私がグループ御曹司と婚約関係を結ぶ情報は徐々に広まっているとの事だった。万が一、変な事件に巻き込まれた場合、即座に対応できるようにと彼なりの配慮だったらしい。  動きを制限されているようで窮屈ではあったが、こればかりは致し方が無いと私も渋々了承した。  しかし、案の定理研内では「高城が黒塗り高級車の送迎付きだ!」と初日から騒がれる羽目となった。  目立つ事が大嫌いな自分にとって、それは苦痛でしか無い。  けれど、よくよく考えたら、これから先こんな生活が嫌でもついてまわり、注目される立場に置かれる事を改めて実感した。  いくら職場で高城姓を名乗っても、これから自分は、あの藪中グループ御曹司のパートナーと位置づけられるのだ。 「……はぁ」  昼休憩の時間を迎え、所内食堂に向かう途中の廊下で重苦しい溜息を吐いた。  藪中と人生を共にするのが嫌な訳ではない。自ら望み番関係を結んだのだから。それに対しては一切の後悔もない。ただ、今までの生活と、あまりにかけ離れ過ぎて気持ちが追い付かないのだ。
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