Marriage Blue(前編)

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 来月には籍を入れ、彼との間には、ゆくゆく子供を成すだろう。  そして年月が流れ、藪中がグループ後継者として指揮を取る立場になった時、今より目まぐるしく環境は変わるに違いない。  先の事を考え過ぎて漠然とした不安が過るのもまた事実だ。きっと藪中はそんな私の敏感な心も感じ取っている。だからこそ、結婚後も仕事を好きにして構わないと言い、藪中家に入る事も時がきたらと両親に話してくれたのだ。    私にはずっと研究を続けて欲しいと彼は言う。それは有り難いのだけれど、今後彼をサポートする場面も多く出てくる事だろう。各界の社交的場に、二人揃って出席する事もあるに違いない。  一般庶民であり、オメガである自分が果たしてその役目を担えるのかも不安要素の一つだ。 (いつのまに、こんなに女々しくなったんだ私は……)  彼是ウジウジ考えるのは性には合わない。きっとこれはあれだ……。 「そうか、これが俗に言うマリッジブルーか……」  半ば上の空で注文した本日の昼食、ザル蕎麦をトレイに乗せながら、その表現が一番しっくりくると自ら頷いた。 「……高城、お前独り言、ダダ漏れだぞ」 「――っ!」  聞き慣れた声に心音が乱れ、俯いていた顔を弾けさせて隣に立つ男を見上げた。そこには私より頭一つ分高く精悍な顔立ちの持ち主で、心許す友人の男がいた。 「か、神原さん……!」 「そうかぁ、高城は今、結婚を間近に控えて幸せ絶頂なんだなぁ。ワハハ! そりゃあご馳走さん! なぁ、瑞貴」  神原は茶化しながら、傍に立つオメガの美青年瑞樹に同意を求める。すると、ふざける神原を窘めるようにして瑞貴は淡々と告げてきた。 「やめなよ神原さん。高城さん、そういうの絶対嫌いだから」 「そうですよ神原さん。悪趣味です」  すかさず私も反論し眼鏡越しで神原をキッと見据えた後、いつもの窓際の席へと向かった。 「えぇ!? だって高城がマリッジブルーだとか言ったからだろぉ」  神原も特盛りのビーフカレーをトレイに乗せると、私の後を追いかけて来た。二人で向かい合って座ったところで、瑞貴も一足遅れて私と同じ蕎麦を持って席へとやってくる。彼は自然と神原の隣に座った。
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