Marriage Blue(前編)

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「ところで、御曹司君は元気か?」  神原は水の入ったピッチャーを手に取ると、其々のグラスに水を注いでくれた。 「ありがとうございます。藪中さんは今、家業の関係でアメリカに行ってます」 水を受け取り一口含み飲みながら答えると、だらしない顔で神原がニヤニヤと笑っていた。 「……なんです?」  どうせまた、よからぬ事を考えているのだろうと、神原とは一切視線を合わせず、割り箸を割った。 「いや、それでここ数日、あんまり元気なかったんだなぁって思って。なぁ、瑞貴?」 「なんでもかんでもオレに同意求めるのやめてよ」  瑞貴は蕎麦を(つゆ)につけながら小さく溜息をつく。そんな瑞樹を私はジッと見つめた。  白い肌に栗色の髪がよく映え、その瞳は綺麗に磨かれた宝石の様に碧い。彼がこの理研で、臨時のアルバイト所員として働く事となった日、理研中の人間、男女問わず色めき立った。    オメガとしての色香に加え、この美貌だ。誰だって目を奪われるに違いない。そんな彼が神原の所で世話になってもうすぐ半年になろうとしている。  最初はどうなる事かと心配したが、二人の関係は友人として上手くいっているようだ。    神原は瑞貴がある程度自分で生活出来るようになったら、一人暮らしをして貰うつもりだと先日話していた。その時の神原の顔は、どこか寂しそうだったのが深く印象に残ってる。  きっと瑞貴の事が弟のように可愛くて仕方がないのだろう。現に二人のやり取りを見ていても、まるで世話を焼く兄だ。いや、これは母親かもしれないと、前に並び座る二人に向かい、視線を交互に送った。
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