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発情期と言われ、嫌な鼓動音が一度鳴る。
オメガがアルファと番関係を結んだ後、発情フェロモンは従来より発せられる事は少ないとされている。
しかし、自分の身体に至ってはそれが当てはまるのかと言われたら、首を縦に振れなかった。
平均年齢を大きく超えても迎える事のなかった発情期は、藪中との運命の出会いが引き金となったようなものだ。予測不可能な体である事は間違いない。発情周期も定まっていないのだ。
戸惑いを隠せないまま、窓から差し込む夏の日に照らされ、瑞貴の海のように輝く瞳を見つめ返す。
「同じオメガだからかな? なんとなくわかるんだよ。だから早い事抑制剤飲んでおいた方がいいかも」
「そうなんですか? 自分ではあんまりわからなくて。あぁ、でも先週、変な感じはありましたけど、それから何も無かったものですから……」
蕎麦を食べる箸の動きを止めた。
発情期と聞くと、胸が騒いでならない。前回の発情は藪中が渡米している時に訪れたが、抑制剤の効果もあり、普通に生活が出来た。もし今、発情期がきても、薬さえあれば心配は無いだろう。それでもやはり不安は過る。
「高城の場合はちょっと特殊なんだろ? 仕事も無理すんなよ」
話を聞いていた神原が深刻な表情で心配を口にした。
「えぇ、そうですね……ありがとうございます。取りあえず後で抑制剤は飲んでおきます」
「あの抑制剤、確かに頭痛の副作用があるけど効果は大きいよ。俺、吃驚したし、ほんと助かってる。発情期で良い思い出なんてないし……」
オメガである瑞貴も発情期で苦しんできた身だ。その言葉には重みがあった。
小さく呟きながら俯く瑞貴を、神原は複雑な表情で見つめた後、優しく微笑みながら彼の頭をくしゃくしゃと掻き撫でた。
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