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「……わっ! ちょ、ちょっと! 髪が乱れるじゃないかっ!」
「そんな暗い顔すんな。今は未来に向かって社会勉強しろ。しっかりサポートしてやるから」
「あ……ぅ、うん……」
神原なりの気遣いと優しさなのだろう。その優しさに触れた瑞貴は頬を紅潮させ、乱れた髪を元に戻していた。
私は私で、先程瑞貴に言われた事を頭の中で確認するように反芻する。同じオメガである事から、あながち外れていないのだろうと、白衣のポケットに忍ばせたピルケースを取り出そうとした時だった。
軽快な音階と共に所内放送が響き渡ったのだ。
『――三種遺伝子調査室、高城室長、宮本センター長がお呼びです。至急所長室まで宜しくお願い致します』
「お? 高城、呼び出し食らってやんの」
「……はぁ、ゆっくりご飯も食べれませんね。神原さん、蕎麦大して口をつけてないんで、食べておいて下さい。それか返却口にお願いします。では、また……」
カレーを豪快に食べる神原に向かい、勘弁して欲しいと言いたげに小言を吐き、私は水だけを飲み干した。
「え? おぉ、またな」
宮本センター長がわざわざ呼び付けるという事は、何らかのトラブルかもしれない。
席から立ち白衣の襟を整え、神原と瑞貴に簡単な挨拶を交わした後、私は所長室へと急いで向かった――。
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