Marriage Blue(前編)

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***** 「――失礼致します」  蝶番式の扉をノックすると、室内から「どうぞ」と促す声が聞こえ、私は扉を押し開いた。  室内に入ると同時に私は言う。 「宮本センター長、どうされましたか? わざわざ昼食時間に呼び出して下さるとは」 「あ!高城くん、ごめんねぇ。そんでもって嫌味も絶好調でありがとうねぇ! ちょっとこっち来て」  宮本センター長は室内中央に配置された牛革式のソファに足を組み腰掛けていた。そんな彼の前には、一人の男性の姿があった。座る位置からして後姿の所為か、その顔は見えない。しかし髪型と肩幅の形からして、若い男だとはわかった。 「…………?」  来客中にも関わらず呼び付けた理由は何なのかと、ソファの傍まで足を進めると、その男性は私の方をゆっくりと見上げてきた。 「――――!」  すると、瞳が重なり合った途端、男は私の顔を物珍しげに目を見開いては凝視してきたので、自然と見つめ返す形となる。年齢はおそらく自分と然程変わりないと見た。  藪中とは正反対の髪の色は、黒一色で綺麗に整えられており、少し釣り上がった双眸の奥の瞳もまた黒い。鼻筋も高くパーツのバランスが良い事から、男前に分類されるであろう。そんな男は未だ視線を逸らさず、ただジッと私を見つめてくるのだ。  まるで化け物を見たかのような表情に失礼な奴だと内心唸るが、彼に対して小さく会釈し、宮本センター長の方へと視線を向けた。 「宮本センター長、一体何の御用ですか?」 「あぁ、うん、とにかく座って」  宮本センター長が来客者の隣に座るように指示したので、彼に失礼しますと、ひと声かけ隣に腰掛ける。直ぐに男の刺さるような視線を至近距離から感じ、たちまち居心地の悪さを感じた。 (――人をそんなに観察して何が楽しいんだか)
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