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世界的に有名な音楽指揮者でアルファでもある久我淳の顔は、何度かテレビを通して見た事がある。それが今隣に座る男の父親だと言うのだ。
(――久我の息子か。しかもアルファだって?)
次は自分が久我を注視する番だった。確かにこの整った容姿は、アルファならではかもしれない。しかし、全く感じ取れなかったのは何故だろうかと考えたが、答えは直ぐに出た。
(そうか……藪中と番っているから、他のアルファには、あまり反応しないのか)
元々特異体質だっただけに、アルファのフェロモンには鈍感ではあった。自分が唯一過剰反応したのは、運命の番である藪中だけなのだ。
久我がアルファと聞く中、少し思い出した事がある。大学に在学中、他の学部にアルファが数名居たという事だ。その内の一人が、この久我なのだろう。
申し訳ないと思ったのは、彼は私の事を覚えていてくれていると言うが、こちらが全く覚えていないという事だ。流石に失礼だと感じてならない。
「すみません。在学当時は、その……勉学に必死でして、交友関係も狭かったものでしたから……」
ここは素直に謝罪すべきだろうと考え頭を下げた。
「あぁ、いいんです。気にしてませんから」
手を振りながら久我は謝らなくて良いといった風に笑っていた。
「まぁまぁ、積もる話は後でしてもらって、ここで本題だけど……」
宮本センター長が小さく咳払いをした後、私を呼び出した経緯を語ろうとしたので、私と久我は彼の方へと向き直った。
「実はバイオ研究所と共同研究をはじめる事になってね。そこで新たなチームを発足する予定なんだけど、理研側からは、その中心者として是非高城くんにお願いしたいと思ってね」
「えっ? 共同研究?」
瞳を瞬きながら問い返す。しかも中心者とは吃驚する以外にない。
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