Marriage Blue(前編)

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「……えぇ、そうです。藪中グループの次男である路成氏と、来月結婚します」 「え? でも、高城さんって男性……あっ!」  久我はやっと理解したのか驚いた表情を見せた後、口許を手で覆った。 「はい……御察知の通り私はオメガです。共同研究では足を引っ張らないように努めますので……」 「おっ! 高城君、引き受けてくれるの? さっすがー!」  大袈裟に拍手をする宮本センター長の事は無視する事に決め、久我に向かい頭を下げる。すると彼は頭を上げて下さいと慌てて言った。 「足を引っ張るも何も、高城さんの頭脳と知識と研究のセンスは素晴らしいですから頼りにしてますよ。俺が言いたいのは、その……」 「はい?」  語尾を濁す久我に訝しげな視線を送ると、彼は何でもないですと小さく呟いた後、宮本センター長と今後のスケジュールを確認し出した。 「じゃあ、高城君もちょっとこのままいい? 色々確認し合いたいし」 「わかりました」  宮本センター長の申し出に頷きながら、私は机上のファイルを手に取る。久我が用意し作成したのだろう。彼の名前が記されていた。  内容に少し目を通すだけで、要点が上手く纏められている事がわかる。バイオ科学からの視点で遺伝子工学の事が書かれている箇所は特に読み応えがあった。しかしどうも落ち着かない。そう、これは久我の視線を全身で感じているからだ。 (やはりアルファだからだろうか――?)  嫌悪感とはまた違う、変な違和感に包まれながら、私は番の証である、項の噛み跡に無意識に指先を這わせていた――。
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