Marriage Blue(前編)

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   運命の番となった藪中と結ばれてから既に半年が経過し、季節は夏を迎えていた。  今年も記録的猛暑という事で、茹だるような熱さが続く中、私は相変わらず日々研究に没頭し、精子を徹底的に調べては実験に取り組んでいた。  日本理研の新しい組織体制もやっと落ち着き、トップに君臨する宮本センター長は、世界各国を忙しく飛び回る毎日で悲鳴を上げていると聞く。  彼の後を継ぎ、室長として業務に励む中、先月、新たな副室長がやっと決まり、仕事の負担も少しは軽減された今は、世界化学機構に提出する論文に追われていた。  藪中との結婚を前提とした交際は順調だ。先月、彼の御両親への挨拶も済んだところで、いよいよ来月、私達は籍を入れる。  藪中もグループ副社長の任に就いてからというもの、次期後継者としての存在感を発揮し、若い立場でありながらも奮闘していた。重役会議や接待も多い中、その気の遣いようは半端無いと理解する。それでも彼は堂々と振る舞い、圧倒的なアルファのオーラで周囲を魅了していた。  勿論それだけではない。彼は元々優秀な頭脳の持ち主だ。普段柔軟な態度も、仕事モードになると、一気に別人のように切り替わる。  お互い公私共に忙しい事には変わりないが、この数カ月で私達は確実に愛を深めていた。  そして先日、今まで住んでいたアパートを私は退居し、藪中のプライベートマンションに住居を移した。  結婚後暫くは、このマンションで生活しようと二人で話合った結果だった。  本来ならば藪中家に身を置く事が望ましいだろうが、如何せん私も仕事をする身だ。しかも彼の実家は有り得ない程の豪邸で使用人の数もまた多い。そんな暮らしを想像するだけで目眩ものだった。一般庶民出身の自分が落ち着けるはずがないと、結婚後の生活に些か不安が生じていた。  その気持ちを藪中が敏感に汲み取ったのだろう。挨拶に行った数日後の事だ。藪中の両親が、息子である彼が完全にグループの後継者となる日が来るまでは、二人の好きにして構わないと言ってくれたのだ。
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