Marriage Blue(前編)

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 ちなみに抑制剤は瑞貴の忠告もあり、バーに向かう車中で飲んでおいた。  今日服用したのは、アメリカの三種研究グループが試験段階として改良したものだった。口にするのは初めてだったが、副作用が少ないとの事で、先日宮本センター長から試しに飲んでみてはと、渡されたのだ。 (効果は、まぁ、心配ないでしょう)  三種研究グループの作った薬なら、試験段階でも問題ないと、カプセルを口に放り入れペットボトルの水を流し込んだ時だ。その一連の動作を見た運転中の西野が、ギョッとした表情を運転ミラー越しに見せ「もしかして発情期(ヒート)ですか?」と遠慮がちに尋ねてきた。  私は念の為である事と、今から会う相手がアルファである事も告げた。すると、普段滅多に感情を現さない彼が急ブレーキをかけるぐらいに驚いたのだ。  久我の事を西野に話した途端、彼は複雑そうに渋りながら、飲み終わるまで店前のパーキングで待機すると言った。流石に二時間も待たせるのは悪いので、終わり次第迎えに来て欲しいと言っても、西野はそんな事をしたら、藪中の怒りを買うと決して引き下がらなかった。  結果、久我と会っている間、西野は車中で待機する事になったのだ。 「もし路成様に知れた場合、何と申し上げたら……」と、ぼやきながら頭を抱えていた西野だが、これは仕事の付き合いであり、時間厳守で必ず戻って来ると伝えた。  そして車から降りる際に西野にこう告げた。 「知れるも何も、何も悪い事はしていないじゃないですか。あぁ、でも、藪中さんから連絡が入った場合は友人と会っているとだけお伝え下さい」と。  ただ、余計な心配だけはかけたくないだけだった。それ以外の理由は無いのだ。
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