Marriage Blue(前編)

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「そうだ、誉さん。突然なんですけど、明日から来週の週末までアメリカに飛びます」 「え? 珍しいですね。藪中さんの拠点は今、日本でしょう?」  藪中の胸から顔を上げて尋ねると、彼は頷きながら答えた。 「そうなんですけど、向こうの理研の重役や、世界化学機構の幹部の人たちを招待したレセプションパーティーをグループ中心で行うんですよ。最初は行く予定がなかったんですけど、やはり父が出席するようにと今朝言ってきて……。どうやら政治関係者も来るみたいですし」 「そうですか……」  流石世界をも牽引する巨大グループだと改めて痛感した。そしてその後継者がこの藪中だと思うと、やはり住む世界が違うと感じてならない。  確かに私達は運命の名の(もと)、番関係を結んだ。もちろん確かな愛をもって。それでもこの複雑な気持ちは拭えずにいた。  時代が変わったといっても、オメガへの差別や偏見はまだまだ色濃く残っているのは否めない。 そんなオメガの自分が、アルファ中のアルファで、しかも大企業の御曹司と来月には結婚をするのだ。 (実感がないというか、何というか……)  不安が全くないと言えば嘘になるが、藪中と人生を共にしたいという気持ちは日に日に募る一方だった。自分がこんな心を持っていただなんて未だに信じられないが、それが嘘偽りない気持ちなのだ。だからこそ、その不安を消し去るぐらいに私はもっと成長したいと、彼に釣り合う人間になりたいと思っている。その為には、仕事で確かな実証を示さなければならないと密かに決意する日々だ。 「――誉さん?」 「えっ、あ……気を付けて行ってきて下さいね」  色々考え黙りこくった私を不思議に思ったのか、藪中は少し心配そうな表情で見つめていた。 「はい、直ぐに帰ってきます」 「えぇ、待ってます……あっ、や、藪中さん?」 「ふふっ、誉さん寂しそうだなぁって」 「そ、そんな事――っんぅ……」  藪中が私の額や瞼、鼻梁に唇を滑らせた(のち)、攫うような口付けを交わしてきた。
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