Marriage Blue(前編)

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「ぶはっ……! アハハハハハ!」  頭の中で悶々と藪中の事を今後どう呼ぶべきか悩んでいたら、隣から盛大に吹き出し笑う声が聞こえたのだ。 「ちょっと、何がおかしいのですか!?」  眼鏡越しで藪中を強く睨んだが、彼はお腹を抱えて笑っていた。 「いや、だって! そんなに悩む事かなぁと……あぁ、可笑しい、アハハハハ!」 「藪中さん失礼ですよ! こっちは真剣に悩んでいるんですっ! それを笑うなんて、あッ……!」  笑い続ける藪中に抗議する為、腕の部分のワイシャツを掴むと彼によってその手は捕えられた。 「誉さん、何でもいいんですよ? 路成さんとか、ミッチーとか。あ、大学時代の友人は俺の事はヤブっちって呼んでます」  手をキュッと掴まれながら呼び名を提案する藪中を私はマジマジと見つめ言った。 「ヤブっちって、それも苗字ですよね?」 「あ、そうかも。ハハハッ!」  掴まれた手はそのまま藪中の口許に持って行かれ、その動作を私は抵抗もせず眺めていた。 「まぁ、誉さんが呼びやすいようにしてくれて構わないですよ……?」  藪中がチュッとリップ音を鳴らして、指の一本一本や手の甲に口付けを丁寧に施す。肌が悦ぶのがわかった。 「じ、じゃあ好きに、させてもらいます……――っ!」  こそばゆく感じ手を引こうとするが、それは許されず、気が付けばソファに押し倒された。上質な黒革張りのソファが小さく軋んだ音を発し、私の身体はそこへと沈んだ。 「ちょっと、藪中さ……!」  その行動に戸惑っていると、目前に藪中の顔が迫っていた。 「誉さん、明日から一週間会えないんで、寂しいからって泣かないで下さいね?」 「……それは貴方でしょう?」 「ははっ、そうかも」  藪中が眉を下げながら、私の首筋に顔を埋めた。 「っ……ちょ、ちょっと?」  熱い吐息が、番の証が刻まれる項にまで届き、微弱な電流が脳にまで駆けはじめる。
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