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お散歩
しばらくそうして拗ねていると、鼻先を美味しそうな匂いがかすめた。
途端に、弱っているとはいえ空腹な腹は悲鳴を上げた。
汗をかいた髪をかきあげ、俺はベッドから観念して起き上がる。人間、食欲というものには逆らえない生き物だ。
「あれ? 起きてきたんだ。できたらベッドまで持って行こうと思ってたのに」
裸のままで料理を作る遼を、俺は脱力感たっぷりに見た。でも、着る物がないんじゃしょうがない。
…ん?
「お前、下着はどうしてた?」
「コンビニで使い捨て買ってたんだ。持ち歩こうにも、本当に財布と携帯だけで飛び出しちゃって」
「男のとこでの生活は?」
「洗濯してた。服も…置いてきたんだ。俺自身、ちょっとパニックだったし。でも今更戻れないしさ」
その気持ちは分かる。俺も今更、彼女に連絡はとれない。なにせまだ、傷口が生々しくて痛い。
「そこ、座ってよ。もう少しかかるから。その間、これ飲んで」
出されたのは、一見普通の水。飲んでみて、それがレモン水だと分かった。ほんのり甘い。それに、飲んでいると少しだが胃の辺りがすっきりした。
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