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「危ないよ、お兄さん。信号赤だし」
「…あぁ」
みれば俺の前を、車が通り過ぎていく。俺はぼんやりと、男を見上げていた。
そいつは俺を真っ直ぐ立たせて、腕を離す。何か言いたそうな顔をしている。まだ二十歳くらいだろうか。格好はとてもラフだ。
「あの、お兄さん」
「うっ」
「…え?」
言う気になったのか、近づいてきたそいつの腕を俺は掴んだ。なんでかって? それは…。
「うえぁ」
「わぁ! だっ、大丈夫お兄さん!」
突然こみ上げてきた吐き気を我慢できるわけがない。俺は何とも情けないが、そのまま路上で身動き一つとれなくなった。男の腕も掴んだから、勿論被害は男にも及んだ。
これが、俺の人生をとにかく引っ掻き回す奴との、出会いだった。
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