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「うっ…ぇ…っ」
結局タクシーを男に拾ってもらい、俺はどうにか家に帰ってきた。男が俺を抱えて部屋に上げてくれ、今トイレで背中をさすってくれている。
「大丈夫? 水、持ってこようか」
「い…全部吐く…」
「吐く物があるほうが楽なんだよ。待ってて、今持ってくる」
今どき、甲斐甲斐しい奴だ。なにかおかしなことをするでもなく、俺の傍を離れない。俺はトイレで情けない状態だってのに。
しばらくして俺の所に戻ってきたそいつは、コップを唇に当ててくれる。ひんやりとした感触が気持ちいいが、飲みこむとすぐに戻してしまう。でも確かに、胃の中が空っぽよりは楽かもしれない。
男は何度も俺に水を飲ませてくれて、俺はその度にこみ上げる吐き気に我慢できずに吐いた。
「本当に大丈夫?」
「ダメ…だ」
「寝た方が楽かな? 布団、つれていくね」
拒むとか、嫌だとか、俺は全く考えられなかった。それもそうだ、考えていたならこいつを家に上げていない。
俺は抱えられてベッドまで行った。布団に寝転がると、少しだが気分が落ち着いた。そしてそのままウトウトと、俺はいつの間にか寝こけてしまっていた。
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