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発端
ユリアラは小間使いだ。
ボルドウィン家に仕えている。
名家だという話だが、ユリアラは正直言ってボルドウィン家の何がすごいのか判らなかった。
取り敢えず金持ちだなあぐらいに感心はしていたけれど。
そう考えながら、ユリアラは寝台を整える。
この家の家族構成は、夫妻とその3人の息子だ。
次男は現在騎士として働いており、城にいない。
三男も城を出て1人暮らしをしている。
夫妻と長男の寝台の敷き布を回収したユリアラは、洗濯機のなかに枕袋とともに入れ込み、洗剤を入れて釦を押した。
そうすると稼働を始めたサイセキから水を得て、しだいに回り出す。
あとは洗濯機に任せておけばよいので、ユリアラは次の仕事に取り掛かった。
ボルドウィン家は、城と呼ばれるに相応しい、大きな館だ。
その昔は、災害などの際の人々の避難場所だったそうで、細かく仕切られた部屋数の多い城だ。
これをすべて掃除する必要はない。
ユリアラがするのは、限られた部屋の整えと、食事の給仕ぐらいのものだった。
時間が空いているときは、食事の下ごしらえなどもするが、今はその食卓を整えるために、庭師に花をもらっているところ。
きれいに棘を取ってもらった花を抱えて、城のなかに戻ろうとすると、2階の露台にある1人掛けの大きな椅子に、ほとんど寝そべる格好の長男…クランがいるのが見えた。
今日は平日だが、クランの出勤はいつも10時頃だ。
今朝も優雅で羨ましい、と、少しも感情のこもらない感想を頭に浮かべる。
クランは有名人だ。
ボルドウィン家はアルシュファイド王国の北の玄関口、フェスジョア区での海の事業を幅広く展開していて、東地区の海岸部を占めるハクラ港で働く者たちほとんどの雇い主に当たるのだ。
また、よく現場にも回っており、人柄をよく知られ、その容姿からも、特に女性へ与える印象がよい。
ユリアラは話しかけたり話しかけられたりしたことがないので実感はないが、女性を中心に人気の高い人物なのだということは知っていた。
だが、今後も直接関わり合うことはないのだろうな、と、花を飾りながら頭の片隅で考える。
この城に来てから半年、話しかけられたのは、前の小間使いとの引き継ぎのとき、よろしく頼むのひと言だけだった。
もっともそれは夫妻も変わらない。
小間使いとはそうしたものだ。
ユリアラは王立技能学校で教わったことを思い出す。
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