出発

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言いかけて慌てて口をつぐんだ。 小間使いが発言など、不用意にするものではない。 そう教え込まれていたのに、つい口から出てしまった。 クランが、ん?とユリアラを見た。 「なんだ?」 ユリアラは仕方なしに言葉を繋げた。 「国外に出られたのはこれが初めてなのでしょうか」 「ああ、そうだ。背中を押してくれてよかったよ。こんな景色が見られるなんてな」 「背中を押した?」 そんな覚えはない。 するとクランは笑って答えた。 「カザフィスの品物がほしかったら出向く。ただそれだけのことを教えられた気がしたよ。だから決心した」 ユリアラは思い出した。 確かにそのように聞かれた。 「私は…行けるわけがないから行けるならと言っただけで…本当に行くとは考えていませんでした」 そう言うと、クランは、いいんだ、と言った。 「別に本気だと思ったわけじゃない。ただ、行けるなら行く…そんな簡単なことを悩んでいるのが嫌になったんだ」 「簡単でしたか」 「ああ。ただ行くだけなら簡単だ。問題は、買えるかどうか…いや、持ち帰れるかどうかだな」 「なぜ…」 ユリアラが言いかけたとき、食事が運ばれてきた。 女給が去ると、うまそうだなと言って、クランが食事をはじめ、ユリアラも食べ始めた。 「うん、うまい!そちらはどうだ?」 「軟らかくておいしいです。白乳との味の釣り合いも取れていて、香辛料が効いていて、全体を引き締めています」 クランは少し驚いたようだった。 ただうまいかまずいか聞いただけなので、そのような感想が聞けるとは思っていなかった。 「ふうん、香辛料か」 「はい。詳しくは判りませんが、今まで食べたことのない香辛料の味がします」 クランは自分の分の肉を食べてみた。 「そう言われると、こちらも今まで食べたことのない味がしているような気がする」 「きっといろんな港から香辛料も仕入れているんでしょうね」 「ムーリエにもあるかな」 「さあ、ムーリエってどこですか」 「ハルト港から内陸部に入ったところだ。カザフィスの通商の要で、様々なものが集まる」 「それなら、あるんじゃないですか」 「どうだろうな。楽しみだな」 そんな話をしながら食事をし、食後の茶を飲んでいると、ユリアラは、小間使いの立場を忘れかけている自分に気付いた。 気を引き締めなければ、と思っていると、展望室に行こう、と言われた。
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