9人が本棚に入れています
本棚に追加
言いかけて慌てて口をつぐんだ。
小間使いが発言など、不用意にするものではない。
そう教え込まれていたのに、つい口から出てしまった。
クランが、ん?とユリアラを見た。
「なんだ?」
ユリアラは仕方なしに言葉を繋げた。
「国外に出られたのはこれが初めてなのでしょうか」
「ああ、そうだ。背中を押してくれてよかったよ。こんな景色が見られるなんてな」
「背中を押した?」
そんな覚えはない。
するとクランは笑って答えた。
「カザフィスの品物がほしかったら出向く。ただそれだけのことを教えられた気がしたよ。だから決心した」
ユリアラは思い出した。
確かにそのように聞かれた。
「私は…行けるわけがないから行けるならと言っただけで…本当に行くとは考えていませんでした」
そう言うと、クランは、いいんだ、と言った。
「別に本気だと思ったわけじゃない。ただ、行けるなら行く…そんな簡単なことを悩んでいるのが嫌になったんだ」
「簡単でしたか」
「ああ。ただ行くだけなら簡単だ。問題は、買えるかどうか…いや、持ち帰れるかどうかだな」
「なぜ…」
ユリアラが言いかけたとき、食事が運ばれてきた。
女給が去ると、うまそうだなと言って、クランが食事をはじめ、ユリアラも食べ始めた。
「うん、うまい!そちらはどうだ?」
「軟らかくておいしいです。白乳との味の釣り合いも取れていて、香辛料が効いていて、全体を引き締めています」
クランは少し驚いたようだった。
ただうまいかまずいか聞いただけなので、そのような感想が聞けるとは思っていなかった。
「ふうん、香辛料か」
「はい。詳しくは判りませんが、今まで食べたことのない香辛料の味がします」
クランは自分の分の肉を食べてみた。
「そう言われると、こちらも今まで食べたことのない味がしているような気がする」
「きっといろんな港から香辛料も仕入れているんでしょうね」
「ムーリエにもあるかな」
「さあ、ムーリエってどこですか」
「ハルト港から内陸部に入ったところだ。カザフィスの通商の要で、様々なものが集まる」
「それなら、あるんじゃないですか」
「どうだろうな。楽しみだな」
そんな話をしながら食事をし、食後の茶を飲んでいると、ユリアラは、小間使いの立場を忘れかけている自分に気付いた。
気を引き締めなければ、と思っていると、展望室に行こう、と言われた。
最初のコメントを投稿しよう!