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勘定台に行くと、クランがふたり分支払う。
「いいんですか?」
「宿代と食事代ぐらいは払う。俺のわがままで付いてきてもらっているのだからな。それとも、俺の両親に金を持たされたか?」
「はい、一応…」
「そうなのか。だが、俺なら引き出し場で引き出せる金がある。いざというときのために取っておけ」
引き出し場とは、大陸共通のもので、預けている金を引き出すことができる。
ユリアラは、ほっと息を吐くと同時に頷いた。
正直、いくら使うことになるのか怖くて、自分の金も持って来ているぐらいなのだ。
少なくともこれで、宿の心配はしなくていい。
支払いを終えてそのまま同じ階層の展望室へ行くと、椅子と机がほどよい間隔で配置されていた。
ユリアラは迷ったが、1人掛けの椅子に収まり、手提げ鞄を椅子の脇に置いた。
椅子は上等で広く、ユリアラが座ってもなお、荷物を置ける隙間があったのだ。
クランは長椅子の肘掛けにもたれて、ユリアラを見た。
「そういえば、俺と2人で旅行に出るなど、お前の両親は許したのか?」
「言っていません。1人暮らしなので」
ユリアラの両親はフェスジョア区の一画に住んでいる。
ずっと両親と暮らしていたのだが、独り立ちしろと言われたので職場の近くに部屋を借りたのだ。
クランは目を見開いた。
「いいのか?」
ユリアラは首を傾けた。
「特に都合の悪いことはありません」
「いや…お前も若い娘だろう」
「さあ、もう25歳なので娘というのか…」
「同じ年か。20代は若い娘だ。両親が心配するんじゃないのか」
「さあ、するかもしれませんが、独り立ちしろと言われたからには自分の責任で決めなければ。と言うほどのものでもないでしょうが…。ただの数泊の旅行みたいなものですし」
「まあ…そうかもしれないがな…。今朝も言ったように、もしかしたら危険な目に遭うかもしれない。そのときは俺には構わずアルシュファイドに戻れ」
「そんなことできません」
思わずそう言ったが、残っても何ができるとは言えない。
ユリアラは考えが甘かったなと後悔した。
「…まあ、戻れと言っても船の都合もあるしな。できるだけ危険は避けよう」
「そうしてください」
生意気な言い様だと気付いたが、口に出した言葉は戻らない。
幸い、クランは気にした様子はなかった。
頷いて、ところで、と言った。
「さっき何を言いかけたんだ?食事の前、なぜかと」
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