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ユリアラは首を傾げて考えたが思い出せなかった。
「申し訳ありません、忘れました」
「そうか。ああ、チェザ港に着いたようだな」
クランの視線の先には、それほどには大きくない港があった。
「ご乗船の皆さまにお知らせします。まもなくチェザ港に接岸します。こちらで降りられるお客さまには、お忘れ物がないように、今一度、身の回りの品をご確認くださいますよう、お願い申し上げます」
ユリアラは自分の鞄に目を落とした。
荷物はこれだけだ。
「お降りの際に乗船券を確認いたしますので、ご準備をお願いします。乗船券をなくされたお客さまは、近くにおります案内係にお声掛けください」
ユリアラは服の隠しに入れてある乗船券を触って安堵した。
異国で、しかもまだ着いてもいないのに、紛失ごときで問題を起こしたくない。
港と船の様子を見ていると、やがて船は停まったようだった。
「只今、チェザ港に接岸しました。降り口は船上1階の船首、右舷側になります。繰り返します。降り口は船上1階の船首、右舷側になります。係の者の指示に従ってお降りくださいますようお願い申し上げます。本日は客船ラズベルをご利用いただき、ありがとうございました」
展望室の客たちの幾人かが立ち上がり、船首に向かって右側の様子を眺めにいく。
ユリアラの位置からは正面の倉庫以外何も見えない。
やがて時間となり、船が動き出した。
「本日はアルシュファイド船籍の客船ラズベルにご乗船いただきありがとうございます。本船はこれよりカザフィス国ハルト港に向けて出航します。目的地は、ニルフィ港から引き返して、アルシュファイド国ハクラ港となっております。正確な時間は船上2階にあります総合案内所にて時刻表をご確認ください」
「ハルト港に着いたらまず宿を探す。そのあと街を見るが、一緒に来るか?」
ユリアラは頷いた。
どんなところか判らなかったが、クランの後に付いていくべきだと思った。
クランも頷いて、それからユリアラに聞いた。
「ユリアラはどんなことに興味があるんだ?」
ユリアラは首を傾けた。
「どんなこと、とは?」
「そうだな、どんなことに金をかける?どんなものをよく買うんだ?」
「さあ…これといって。強いて言うなら食事にお金をかけます」
「食事?」
「はい。食べに行くんです。それでいろんな味を知って、香辛料とか試します」
「香辛料か。カザフィスにあるかな」
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