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「小物はもちろん私は好きですが、好みが分かれます。その点、布は、用途があるかどうかです」
「なるほど。ユリアラはよく見ているな」
ユリアラは慌てた。
「ただの感想です」
ユリアラは、自分が小間使いの域を越えて発言していることを意識した。
クランは手元の紙を見た。
ユリアラが何気なく見ると、それは地図のようだった。
「ハルト港では、仕入れに行くんですか?」
ユリアラは、荷物は持てないな、と思いながら言った。
力仕事は苦手だ。
「いや、まだそのつもりはない。そうだな、帰りに寄るかもしれないが。まずは見る」
「分かりました」
それからクランは、もう1枚の紙を出し、ざっと眺めて、再び前の紙に戻った。
その紙には3本の大きな道があり、それぞれに並ぶ店の紹介をしているようだった。
クランは、それを眺めて、うん、と声にならない音を発した。
「ユリアラ、1泊増やしてもいいか。帰りにまたハルトの街に寄って仕入れる品を吟味したい」
「それはもちろん、せっかく来たんですから、気の済むまで見てください」
クランはユリアラに笑顔を向けた。
はにかむような、少年の笑顔だった。
ユリアラはその唐突さに驚いて視線を伏せた。
見てはいけないものを見た気がした。
クランは、夢中になって紙を見ており、ユリアラは、自分も持ってくるのだったと後悔した。
手持ち無沙汰でいると、クランが、ムーリエの地図でも見るといい、と言ってくれた。
ありがたく受け取って、ユリアラはムーリエの街並みを記した地図を見た。
ムーリエの街は大きな通りが5本あり、 小道で繋がっているようだった。
目印となる店がいくつかあり、ユリアラはそれを覚えることにした。
そうしていると、やがて船内に声が流れた。
「ご乗船の皆さまにお知らせします。まもなくハルト港に接岸します。こちらで降りられるお客さまには、お忘れ物がないように、今一度、身の回りの品をご確認くださいますよう、お願い申し上げます」
時計を見ると15時少し前で、ユリアラは紙をクランに返した。
「下におりるぞ」
クランの言葉に従い、下の階層に下りると、また声がした。
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