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先の店主に聞いた隣の隣の店に入ると、こちらも色とりどりの布だったが、先ほどのものとは違い、とても薄い。
クランは内容をざっと見て、店主に聞いた。
「ここの布はカザフィスで織られたものだと聞いた。アルシュファイドに輸出しているか?」
店主は声を落とした。
「アルシュファイドの者で仕入れて行った者はひどい目に合ってるって話です。お客さん、アルシュファイドからですかい?仕入れるのはやめた方がいい」
「具体的にはどうなる」
「荷持ちがそのままハドゥガンタ行きの船に乗せちまうそうです。文句を言いに行っても知らぬ存ぜぬで。そうでない荷持ちは、襲われてしまうから、アルシュファイドの仕入れには一切関わらないんです」
「いい荷持ちはいないか?」
「評判がいいと言えば、ヤラカン親子ですが、客の選び方も慎重なんじゃないですかね」
「会ってみたい。どこに行けば会える?」
「さあ、噂ばかりで、私は直接には知らないんですよ」
「そうか、ありがとう。探してみる」
そう言ってクランは店を出た。
隣の店は石工師の店で、薄く加工した箱類を多く置いていた。
ユリアラはその意匠に釘付けとなり、役目を意識の端に置いていたのがいつの間にか忘れてしまっていた。
「何かいいのがあったか?」
クランに聞かれて、我に返り、ユリアラは品物をそっと元に戻した。
「いえ、あの…好みだったものですからつい」
クランは気にした様子もなく、むしろ興味津々で聞く。
「こういうのが好みか」
「え、ええ、まあ…石造りでそんなに薄くて、意匠も華美でなく、流れるような線で、花があしらってあって…今、ほしいものにぴったりなんです。それがいくつもあって、似ているけれど全部違っていて、選び甲斐があるのが一番いいです」
「選び甲斐か」
「はい。1種類しかないと残念ですけど、私、たくさんのもののなかから選びたいんです。その方が自分が選んだって納得できますから」
「これはどこがいいんだ?」
「香辛料の瓶をまとめて入れるのにちょうどいい大きさなんです。石作りだから燃やす心配とかないし」
「ほかの用途にも使えるかな?」
「思い付きません。それだと細すぎるんじゃないでしょうか。こっちの幅のある方がいいかもしれません。用途を考えるのも楽しいです。小物類ってそういうものです」
「ふうん…」
クランはその辺りにある小箱をざっと眺めた。
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