出発

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サイジャクはこの限りではない。 サイジャクとは、彩石のひとつで、人の異能を減少させる働きがあるのだ。 他者をも守る護身用なので、証明書さえあれば、持ち出しも持ち込みも可能だ。 彩石にはほかに、サイゴクという人の異能を増大させる働きのものと、サイセキという、力そのものを内包するものがある。 ユリアラが持っているのは、このサイゴクとサイセキだ。 サイジャクは、力量が大きくて、異能が制御不能になる恐れでもなければ、必要ないものなのだ。 やがて審査が終わり、彩石と選別証明書を返してもらうと、ユリアラはクランとともに待ち合わせ広間に向かった。 待ち合わせ広間には、出国予定の船の名と時間が書かれてあり、見るとラズベルの出港時間は11時となっていた。 ユリアラは腕時計を見た。 今は大体9時半ばだ。 「1時間以上あるな。ここで待ち合わせよう」 そう言ってクランは歩いていってしまった。 ユリアラは咄嗟(とっさ)に追うことができず、しばらく立ってきょろきょろと周りを見回した。 すると棟内の地図が見付かり、その隣には島全体の大まかな地図があった。 ユリアラはまず棟内地図を見て、現在地を確認し、隣の島内地図を見て、ここでも現在地を確認した。 それらによれば、ここは出国棟で、指定範囲内に限り、自由に外を見て回れることが判った。 ユリアラはもう一度時間を確かめ、一旦外の空気を吸うことにした。 待ち合わせ広間を横切ると、外に出る。 見慣れない景色に、旅に出るんだなという気持ちがした。 出てすぐの南側にはユリアラの背の倍ほどある高さに展望所があって、上がってみると、近景に白い花畑が、遠景にフェスジョア区が見えた。 これからアルシュファイドを出るのだなと思ったが、実感は湧かなかった。 しばらく景色を眺めて時計を見ると、10時にもなっていない。 茶でも飲もうと展望所を下りると、ユリアラは再び出国棟に戻った。 出国棟の地図を見直すと、喫茶店があった。 昇降機を利用して上にあがると、見晴らしのいい展望喫茶に着いた。 窓際に席を取って、葉茶を頼むと、先ほどとは違う、島の全景が見えた。 ふと気付くと島内案内図が机の上にあり、茶を飲みながら地図を見ていると声が響いた。
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