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「ご案内します。アルシュファイド船籍、客船ラズベルに乗船許可が出ました。繰り返します。客船ラズベルに乗船許可が出ました。ご乗船の方は出国前広間から係の指示に従ってお進みください」
ユリアラは慌てた。
急いで茶を飲み干すと、手提げ鞄ふたつを持って、料金を支払い、昇降機で階下に降りた。
待ち合わせ広間の、クランと別れた場所に行くと、彼はすでにおり、ユリアラは申し訳ありませんと謝った。
「まだ間に合うから大丈夫だ。行こう」
クランとふたり、乗船の受付台へと向かって並ぶと、そこには訓練されたボゥがいて、ひとりひとりを臭気により、薬物などの所持確認をしているようだった。
「お名前は?」
「ユリアラ・テノーラです」
「ご乗船の船は?」
「ラズベルです」
答えるとすぐに通され、通路を進むと、出国前広間に出た。
人が並んでいるところに進むと、係の者が、客船ラズベルにご乗船で間違いありませんかと聞いてきた。
「はい。間違いないです」
「それでは列に従ってお進みください。…客船ラズベルにご乗船で間違いありませんか…」
係の者は次々来る相手に忙しいらしい。
列の後に付いて進んでいくと、斜行用の下りの往復路に乗り、ずっと下の方へ運ばれる。
やがて海面に近いところに着くと、梯子段を上って再びラズベルに乗船することができた。
時計を見ると出港直前と言っていい。
クランの後に従って歩いていくと、船内に入り、周囲を見回す。
ユリアラも周囲を見回して、そこが食品提供区画であることを知った。
クランは左右に目を向けながら歩き、ユリアラは、はぐれないように後に付く。
クランはやがて、船尾にある食堂に行き着いて、振り返った。
ユリアラを避けながら、上に行こう、と言う。
そのとき船内に声が響いた。
「本日はアルシュファイド船籍の客船ラズベルにご乗船いただきありがとうございます。本船はこれよりカザフィス国に向け、出航します。カザフィス国での寄港地はチェザ港、ハルト港、ガリヤ港、シャフト港、ポス港、ニルフィ港です。本船はニルフィ港から引き返して、再びアルシュファイド国ハクラ港に戻ります。正確な時間は船上2階にあります総合案内所にて時刻表をご確認ください」
クランは声が聞こえている間、立ち止まっていたが、声が終わると階段に向かって上にあがった。
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