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「では、この同意書にサインをして下さい」
「……はい」
私の母は医師に促されるままサインをし、印鑑を押した。
私も続けてサインをする。自らに宿った命を自ら消す恐怖を必死にかき消そうともがきながら。
診察室を出ると、スーツ姿の男が女の腹を撫でていた。
「大丈夫だ。現在の不妊治療は進んでいる。きっとうまく行くさ」
男はそう言って憂いを帯びた女の顔を見つめている。女の左手の薬指にはめられた指輪が静かな光を放っている。
高校生の私が妊娠したと知ると、3歳年上の男との連絡は途絶えた。電話番号は変えられ、家も引き払われていた。
私に残された選択肢はたった1つだった。
なんで私ばっかり。
私は女を睨みつけた。
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