36歳の私

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36歳の私

「それは……本当なんですか?」 診察室。将人は医師に訊き返した。医師は無言で頷いた。 将人の顔がみるみるうちに蒼白になっていく。 不妊治療の甲斐あって、私のお腹にやっと新しい命が宿った。しかし、同時に私達には残酷な真実が告げられた。 「今妊娠されている男の子は、染色体異常を抱えています」 「それは要するに、ダウン症、ということですか?」 医師は無念そうに頷いた。 ダウン症は知的障害と身体発達の遅延を伴う先天性の疾患で、現在では未だ治療方法が見つかっていない。欧米では胎児がダウン症と判明した際に中絶を選択する妊婦の割合が極めて高いとされる。 「君は、どうしたい?僕は、君の意思を尊重したい」 ショックを堪えて気遣ってくれる将人の優しさが痛い。私は将人の方を向いて頷いた。 言葉はどうしても出なかった。 病院の外へ出ると、ベビーカーを押している若い夫婦を見かけた。 きっと彼らの子どもは五体満足なんだろうな。でも私に宿った子は…… なんで私ばっかり! 私はその家族を睨みつけた。
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