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②原案
目覚めるとそこは
屋外の階段の踊り場だった
鳥が空高く飛んでいる
赤く染まりだした空に浮かぶ雲の合間に
消えていった
遠くで笑い声が聞こえる
信号機のメロディ
車のエンジン音
ふらふらと起き上がると
「よっ!」
敏はいつものように声を掛けて
階段を駆け上がった
瞳も慌てて階段を駆け上がる
そこには、給水塔があって
それは、まるで
小さなロケットの発射台のようで
どこか、懐かしい哀愁を感じる造形美に
二人で暫く見とれていた
向こう側の人影に気付いて覗き込むと
最近知り合った薫がいる
同性の瞳から見ても後ろ姿さえ綺麗なのだ
こちらを向いた薫と目が合った敏は
栗色の長い髪に
青みがかった眼差しの美少女に頬を染めた
いつも気さくな敏なのに言葉が出てこない
瞳は、自分に自信のない敏の友達を
まだ見たことが無い
気まずくなった敏は、
給水塔の赤錆びを触りながら
軽く会釈をしている
綺麗で優しい薫は偏見を持たない
それなのに孤独な薫
薫は敏と同い歳の高校生
いつものように瞳に微笑んでいる彼女を
敏がじっと見つめている
視線に気付いて、
そっとうつむき恥ずかしがる薫
二人の恋の予感・・・
生まれた国が違っても
違う運命を辿ったとしても
きっと出会いは必然なのだろう
水の流れる音が聞こえる
近くに川が流れていて
放水された水に反射した
虹色の光が夢心地になる
幻想的な時間を共有している今この時は
偶然が重なる奇跡
このまま時が止まればいいのに
薫の余命は、後わずか
「あれは、地下の蓄熱システムの冷却水」
「そうなんですか」
「こいつは、瞳」
「そう、いつも会うよね瞳ちゃん」
薫の白い指が
喉の毛並みを優しく整えてくれる
その心地よさに、思わず瞳を閉じた
二人の恋は、まだ始まったばかり・・・
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